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May 01, 2006

ある学生の活動を振返り、自分を見つめ直す。

<リクルート 進学ネット>に<月間webマンガ>というものがある。

今回、縁あって、愛知学院大学SIFEの活動に参加した学生の学びという観点から、質問を受けた。回答を書いている中で、これは、自分自身の振返りと思った。ある学生の軌跡をストーリーの基本とし、教えない教育の試行錯誤を、質問に答える形で紹介したい。

■最初、先生の講議を受けることになった「H」さんの様子を教えてください。(やってやろうという表情、よく分からないという不安な表情。など先生からみた視点。お分かりでなければ全体の学生さんの印象でも構いません。)

2003年度:「H」は、3年生の時に「考程学」に則った「未来デザイン」ワークの講義を受講していました(当時は、企業経営特論という名称で、今は、企画論(春)、事業計画論(秋)という名称になっています)。同時に、「トータル・ゲーム」という会社ゲームの実習講義も受講していました。いずれも私が担当していました。
この両講義、手法は異なりますが、共通しているのは、①情報を集め、短時間に集中して多様なに情報を組み合わせ、情報が出なくなるまで考え続けること、②その上で、新しい刺激を加え、新しい情報との組み合わせを選択すること(これは閃きの状態です)、③それを踏まえ、決断を下すこと です。
「H」は、好きなスポーツでは意識的に考えずとも脳と体が反応し、同じようなことを行っていたと思いますが、意識的に思考し、無意識の状態を作り出し、更にそれを意識するということには苦戦していました。
しかし、しばらくすると「楽しさ」が分かってきた様子です。顔つきが変わり、自信を深めたようです。特に、未来デザイン・ワークを行っている時には生き生きしていましたね。質問が多くなり、私の研究室にちょくちょく来るようになり、勉強ではなく、自分の生き方と働き方を真剣に発現し、考えるようになっていました。私もサッカーが好きなこともあり、精神的な距離が近いと感じたのでしょう。
実は、彼がこのように変化する仕掛けが講義には盛り込まれていたのです。本来全ての学生が、「H」のように変わることが望ましいのですが、真剣に取り組んだ結果、かれは本当に変化の思考を自分のものとし、行動に移すようになったと考えています。
その仕掛けとは、未来デザインのステップにあります。まず最善の未来を予測することからはじめ、次に未来の視点から現状を把握し、この現状把握を踏まえ、最善未来に近づく活動のコンセプトとグランドデザインを立案し、計画を立てます。未来を想像し、参考とすべき事実、避けたい事実を徹底的に調べ、未来に向かい考え続けます。私の記憶が間違っていなければ、「H」は、これを繰り返し、納得がいくまで繰り返していました。他の学生が一回で終わるところを、同じ考程を自分が納得するまで何度も繰り返していたと想像してください。
ただし、この未来デザインのステップがあったから、「H」が変化したとは考えていません。「H」の考えと行動を促すことになったとは思っています。多くの学生の反応は、今まで思いもよらなかった考え方を通じ、今まで思いもよらなかった自分を発見したという状態に留まっているからです(大半は処理的に講義を受け続けるだけですが・・・)。後から聞いたことですが、「H」は3年生になって、好きなサッカーを通して世界を知りたい、世界のサッカーの考え方、指導の方法を知りたいと思い始めていたそうです。本当に海外に行くところまでは、ふん切りが付いていなかったようですが、未来デザインを通して自分を見つめなおし、追求した結果、海外に行くことを決断しました。つまり、「H」は、他の学生に比べ、自分の生き方と働き方の将来をいち早く考えていたのでしょう。
最後は確信を持って海外に行ってきますといっていました。そして、2004年度の1年間、彼はイギリスに留学しました。
「H」は、帰国後、2005年度にSIFEに参加しました。この講義は、「ビジネス能力」というものです。この特徴を学生は、次のように言っています。次のURLを参照ください。http://bizmentor.cocolog-nifty.com/bizmentor/2006/02/post_54bf.html

■SIFE(サイフ)はチームで行うとお聞きしましたが、何人ぐらいのチームでしたか?
 また、チームの人選は先生が行われたのですか?

2005年度は2つのプロジェクトがありました。
「H」が行ったプロジェクトは2名でした。この他にもプロジェクトがあり、そちらは3名でした。(ちなみにこのプロジェクトは「H」SBC=香港上海銀行部門の世界トップ100校に選出され、世界大会に進みました。)
人選は、原則、希望者です。希望者が、具体的に何かをやりたいと強く思っていない場合は、プロジェクト内容を伝え、選択させます。「H」の場合は、彼自身の希望です。

■「H」さんが選択したテーマ名とその中身を教えてください。

Futsal Project for Social Lifeです。
内容は貴社取材記事を参照してください。http://shingakunet.com/gakkoustdguide/03926101/

■「H」さんはどのような点で苦悩されていましたか?

事業を始めるためのポイントは、「自分ができること」「やりたいこと」「社会的に求められていること」の3つがかみ合うことです。
「H」の「やりたいこと」は、明快でした。ヨーロッパや南米のように、サッカーを人格教育や人生の教育の一つとして日本にも位置づけること。
「H」の「できること」は、サッカープレーヤーとしての、また、当時既に中学校、高校で始めていた指導者として兼ね備えていなければならない、サッカーの技術、技能と戦術眼でした。これについては、一流とまではいかなくても、基礎理論とそれを体現できる技術、技能と戦術眼を兼ね備えていたと思われます。(その後の実践で明らかになりました)他方、「H」のやりたいことを実現する人格教育や人生の教育としての指導術は、まだまだこれから獲得しなければならない技術、技能でした。やりたいこととできることに少なからずギャップがあった状態とお考えください。
他方、「H」のやりたいことと「社会的に求められていること」がマッチするかどうかが大きな課題でした。最初に「H」が考えたのは、小学生を対象にするということです。「H」が理想とする国々では一般的ですので、不思議な話ではありません。「H」と私は、協議を重ねるうちに、①幼児や小学生を対象にスクールを運営する企業が参入してきていること、②JFLを頂点とするピラミッド構造ができあがっており、特に小学生はその底辺に位置し、指導者もその方針に基づいていると考えられること、つまり、技術・技能向上が主に置かれていること、等の現状把握をしました。その結果、当初、「H」が考えた小学生対象の市場への参入障壁が高いことが結論付けられ、別の市場を探すことが喫緊の課題となりました。
その市場が、フットサルを行う社会人の市場です。徐々に地域版のリーグ戦が始まり、社会人のフットサル人口比も高まっているところでした。近隣のフットサルチームを見ると、未経験者の人も多く、練習等も同じチームの経験者が我流で指導するという状態で、指導者不在でした。ここに、参入余地があると考えました。
次に、参入余地があったとしても、やりたいことと社会的に求められていることの整合性はどうか?との検討に入りました。「H」の父親の仕事場での状況、私の仕事経験も振返り、個ではなく集団としての活動に問題が多く存在している実態も浮き彫りになりました。しかし、あくまでも仮説の域を出ないため、社会人フットサルチームの現状を知る複数人にヒアリング調査したところ、結果をまとめてみると、「指導者がいる練習が実現されるのは好ましいが、生活を見直すためのフットサル練習では人は集まらない」というものでした。
そこで、「H」と私は更なる協議を重ね、「結果としての生活の見直し」という方針に転換しました。つまり、参加者は「フットサルの試合に勝てるようになるために」練習に来て、「結果的に集団生活や集団での仕事を効果的に進めるための基本的な考え方と変化に対応できる戦術、技術、技能を学ぶ」というものです。
3ヶ月に及ぶ社会人向けのフットサル練習プロジェクトを実施しました。反応はよく、対外試合でも経験者ばかりのチームとの対戦で勝てるところまでいきました。チームで創造的な活動を行うことは何かを考えるきっかけとなったという声も聞かれました。参加者に投志券を毎回配り、いくらだったら払えるかの金額を書き込んでいただきました。最初は2時間数百円だったのが、3ヵ月後には2千円程度まで上昇しました。
さて、この一連のプロセスを通じ、「H」が苦労したことですが、次のようにまとめることができるでしょう。
(1)自分の考え方が通用するわけではないことに直面したことです。いままでも同様のことはあったでしょうが、今回は、それを克服することを考え実践しなければならず、逃げることはできません。よくよく考え、対策を考え、実践し、反省し、解決策を考え、新しい対策を実践することを繰り返しました。この間、「H」は行きつ戻りつを繰り返し、新しい局面を切り開いていきました。代表例は、小学生対象から社会人対象へと切り替えるプロセスです。
(2)社会人としての経験のない「H」が、社会人(今回の対象は、30代から40代)の目線で物事を捉え直し、更にトレーニングメニューを新たに作る作業です。「H」に全く仕事経験がなかったというわけではありません。母親がコンビニエンスストアを経営しており、絶えず、経営者の目線で店舗経営を考える機会を与えられていましたし、実際にアルバイトと同じように職場にも立っていました。しかし、組織で働く者としての心理、悩み、楽しさが分かっていたわけではありません。また、学生と社会人の楽しみを感じる点の違い、トレーニングを持続させるための仕掛けの違い、フィットネスを練習に盛り込むタイミングの違いなどにも苦慮しました。どうしても、若者に練習をさせることが基本になってしまいがちで、基礎から厳しく繰り返すという考えが基本にあったのです。そこで、毎回、事前に「H」と私が協議し、40代の私の目線でトレーニングメニューを評価し、実践し、実践後アンケート調査をし、結果を分析し、その内容に受講者の私の意見を加え、振返りと次への課題を抽出しました。この繰り返しで、練習メニュー内容がどんどん良くなっていきました。
(3)コーチングとティーチングの違いを人に伝えることに苦慮したことです。多くの社会人を見るため、「H」一人では極め細やかな練習はできません。サッカー経験者(愛知学院大学生)をもう一人の指導者として迎えました。サッカー経験者は、経験者であるがゆえに自分の指導方法を実践してしまいます。いくら事前に打ち合わせをしていたとしても、なかなか「H」の指導方法の本質を理解してくれませんでした。端的に言えば、「H」がコーチングを主体に、考えさせ気づかせる練習方法を採用するのに対し、もう一人の指導者は全て教え、考える余地のない練習方法をとってしまいました。最終的には、協議を重ね解消しましたが、この指導者の姿勢の違いは決定的なものとして、練習の場に現れてしまいました。やることは同じなのですが、言葉のかけ方がまったく違ったのです。

■「H」さんはどのような点で感動ややりがいを感じていましたか?

自分のやりたいことを実現するための試行錯誤ですから、あらゆる問題とその解決が彼自身の将来につながるという意味で、いつも積極的でモチベーションが高かったですね。
社会人向けの練習では、金額とコーチングの評価内容が、参加者よりフィードバックされてきますから、良かった点、悪かった点が瞬時に分かりますので、自分自身の課題設定のために大変良かったと思われます。

■チームのやりとりはどのような感じでしょうか?(一致団結?熱い議論?)

絶えず激論でしたね。傍から見ると口論のように見えることもありましたが、お互い実現したいビジョンが共有されていましたので、通過儀礼のようなものでしょう。

■最後にプレゼンを行うとお伺いしましたが、「H」さんの発表についての意識変化を教えてください。(発表前、発表中、発表後での意識変化など)

プレゼンも資料も全て英語で行いました。英語は「H」にとって、コミュニケーション上さほど問題ではありませんでした。イギリスから帰国したばかりでしたので。
ただし、伝えたい内容を伝わる英語表現に翻訳することには苦労しました。多くの先生方の指導もありましたが、伝える内容の焦点を絞り込むことの方が苦労しましたね。
最初は、簡単にできると思っていたようですが、実際、準備をはじめてみると予想以上に時間がかかりました。この間、何度も内容を考え、英語に置き換える作業を繰り返しましたが、伝え切ることを目標に頑張っていました。
プレゼンの前夜と直前は、他のメンバーと比べ「H」が最も緊張していました。プレゼンの練習をしても、間違えないようにと思い出しながら目線が上に行きがちで、私から目線をジャッジに向けるようにと繰り返し注意しました。
プレゼン中は、過度の緊張状態に陥っていたように思います。質疑応答も、いつもの「H」でしたら感嘆に反応するところを、躊躇しており同時に回答の内容も少しずれていました。
プレゼン直後に、SIFEのエリアマネージャーのニュージーランドの大学の先生より、大変良いプレゼンテーションと質疑応答だったと誉めていただきました。しかし、学生たちは、満足しておらず、他大学のプレゼンテーションと比較し、もっと魅せるプレゼンテーションを考え、伝える内容ももっと豊富にした方がよいと反省していました。
やりきったつもりでいたが、まだまだであったという思いが強く出ていました。

■「H」さんに対して誉めた点、怒ったことや指導した点などを教えてください。

指導という観点から言えば、私は、「H」と同行二人で社会に向き合うパートナーと思っていますので、協議の中で、「H」に何かを気づいてもらいたいという意識で、色々な「問い」を発しました。その繰り返しで、誉めるとか怒るということは一切ありません。ただし、実現するための議論だから、想像の域を出ていたとしても、「ついてこいよ」とは言いました。

■「H」さんの講議に対する意識変化などがあれば教えてください。

「H」に限定したことではないと思いますが、上述したURLをご参照ください。
改めて表記すれば、http://bizmentor.cocolog-nifty.com/bizmentor/2006/02/post_54bf.html

■先生から見て「H」さんがテーマを通してどのように成長したか感想を教えてください。

テーマというより、彼自身の活動を通して、「成果が見えるまでやり続ける、やり抜くことにより、何が分かるか」ということを経験し「問うことの意味」を理解したことが、一番の成果であり、今後の成長の礎となると考えています。

■講議を通して得られるモノを教えてください(先生の主観で構いません)

高校の学びと、大学以降、社会に出てからの学びは大きく異なります。高校と社会の中間に位置する大学は、昨今の潮流からいくと、高校の延長線上に置かれた学びとして多くの学生は理解しています。しかし、私は、大学での学びは、社会での学びを前倒したものが基本になると考えています。
具体的には、次のように考えています。高校までの学びの中心は「理解すること」です。対して、社会に出てからの学びは「問うこと」が中心になります。大学での学びも「問うこと」が基本に置かれる必要があります。
なぜ「問うこと」が重要になるかというと、社会に出てからの生活や仕事には、知らないことが多くなり、知らないことを知る、知らないことを分かるようにするという自立的な学びが大切になるからです。知らないことを知るためにも、次のステップとして知らないことを分かるようにするためにも、きっかけとしての「適切な問」が鍵となるからです。
しかし、一朝一夕に問う力を養えるわけではありません。よって、私は、問うことにつながる「学び方を学ぶ」のが大学であると考え、各種の講義を構成しています。そして、問いを発することのできる思考を身につけるために、PDCAを盛り込んだ実践教育が、「H」が受講したビジネス能力です。

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